CryBaby
disk review : New&Old
001
その川を越えて来い
“South of the River” - Tom Misch(2017)
“Last Train to London” - Electric Light Orchestra(1979)


◎UK期待の新星、トム・ミッシュ。
ヴァイオリンのリフにヴォーカルとベースが絡むイントロがイイ。ツボを押さえたファンキーでソウルフルな演奏ながら、どこかサラッとした聴き心地なのは、抑制の効いたヴォーカルの賜物か。
◎んで、このボソボソと歌われる「サウス・オブ・ザ・リバー」ってどこの川? そりゃもちろんテムズ川のコトだ。
治安の悪さが喧伝される事が多かったロンドンの南側も、近年はオシャレ化してるとか。
でも、彼女はそこから出て行っちまった、と。
「俺は川の南っ側にずっと居たいんだよね」とひとりごちながら川の水面を眺める、ドック・オブ・ザ・ベイな情景が浮かぶ。
「君もこっちに来て、ずっと一緒に暮らそうよ」
「引っ越してくるって言ってたじゃんか! なにがなんだかわかんねーよ……」
FMでパワープッシュされるタイプの曲調かもしれない。アシッドジャズやネオソウル、ジャミロクワイやSuchmos(!)を想起する人もいるかも。
どこかで「夏のドライブにオススメのナンバー!」的に紹介されているのを見た気がするけど、まったく全然絶対にそんな事はない、そういう良曲だと思います。(盛敦)


◎弦入りのブルーアイドディスコ……と脳内検索したら、E.L.O. のこの曲しかヒットしなかった。なぜだろう。川面を見ながらブツブツと彼女への未練をつぶやく男も、もともとはロンドンの出身じゃあなかったのかもしれない。
◎回想シーン。若かりし頃。バーミンガム駅発のあずさ2号、最終ロンドン行きに乗って、彼女に別れを告げる男。
「この夜が永遠なら、そして君と一緒に居れたらいいのにね」……ってお前ウキウキじゃねーか!?
「本当は一緒に居たいから、今夜は音楽を流し続けよう」
「あ、でも俺もう行かなきゃ。そんじゃあねー!」
◎ジェフ・リンにもそんな青春上京物語があったのかは知らないが、その後紆余曲折を経て年齢を重ね、いつしか南ロンドンに落ち着いた男の脳裏に、あの時別れた彼女の姿が浮かぶ事はないだろう。きっと顔すら思い出せない。でも、因果は巡り、男は今日も川辺に独り。
◎そんな妄想とともに、2曲続けてお楽しみください。
え、曲? 完全に「渚にまつわるエトセトラ」の丸パクリですよ。僕は大好きです。(盛淳)
disk review : New&Old
002
船長の息子/常連客と二代目の味
“PASSION” - ReN(2017年)
“友だちがいなくなっちゃった” - 長渕剛(1990年)


◎邦楽では男性シンガーソングライターは少ない。80年代に男子はロックバンド、女子はアイドルという進路の大枠が決まってしまったせいか。
◎そんななかApple Musicのレコメンド枠で知ったReNは、1994年生まれの23歳男子シンガーソングライター。こういうプロフィールならとりあえず聴くしかない。
◎2枚目となるアルバム「LIFE SAVER」は、サーファーアコギ・ロックとEDM的な音作りでいかにも2017年的。ボーカルもラップ的な譜割だし……いや、フォーク入ってないか? と43歳でも安心して聴き進められる既聴感。なんだこのチャラそうな23歳は。
◎アルバムの個人的ハイライトは実質ラスト曲。間違いなく聴き覚えのあるコーラスに導かれる歌い出し「捨てっちまえよ そんな自分
」の「っ
」で俺は確信したのだった。(キド)


◎で、ReNの実父がこちらです。似てるとは思ったけど本当にそうだったから驚いた。
◎そういうわけでどの曲でもいいんだけど、素人さんには馴染みないと思うレゲエナンバーを。「上京物語」的な初期長渕剛の終わりを告げるような歌詞に今もシビれる。そう、学生時代の友達なんてひとりでもいれば充分なんだ。(キド)
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003
うそ泣きコード・プログレッション
“Love Is a Battlefield” - Maysa(2017)
“Astronomy” - Blue Öyster Cult(1974)


◎“MAYSA”って誰? 黒木? とか思ってたら、アレか! インコグニートでスティービーのカバーを歌ってたメイザ・リークか! ジャケ写ではわからないけれど、大分ふくよかになられましたねー。ソウルフルな歌声も、より貫禄マシマシに。
◎彼女の愛聴曲のカバーで構成されたこのアルバムは、あんまりイマ風の音に寄せて来ない、歌唱一本勝負! な心意気が潔い。往年のアシッドジャズ好き各位におかれましては一聴をオススメいたします。
◎タイトル曲はもちろん元祖ロックねーちゃん、パット・ベネターのカバー。解決感のない4コード4小節が延々と繰り返される曲進行は、ヒステリックにエモくて「大号泣しつつも全力疾走(赤信号では停止)」みたいなシチュエーションのBGMにぴったり。
◎そういやイレクトリックユース!なティファニーによるカバーもありましたネ。聴き比べ推奨。(盛淳)


◎NYロックの重鎮!ヘヴィメタルの始祖! とか言われる事が多いBÖC。でも、バンドの代表曲、 “(Don't Fear) The Reaper” が、TVショウでレッチリに滅茶苦茶バカにされていたりして。知名度含め、番組のオチに使えるような立ち位置なんでしょうね。
◎でもでも! CBGBとブラック・サバス、ラヴクラフトとウィリアム・バロウズを結ぶクロスロードに居る稀有な存在、というのがこのバンドへの正しい評価だと思う。
特にこのアルバムは、クトゥルフ的な陰謀論をストゥージズ風の演奏に乗せてシャウトする、オカルトガレージパンク名盤なのでした。
◎MAYSA姐さんのカバー曲との共通点は……この曲の5:25以降を聴いていただきたい。ほら出た、同じリズムとコード進行。ね、エモいでしょ?
◎マイケル・ムアコック「エルリック・シリーズ」(ハヤカワ文庫)の解説を読んで、BÖCとホークウインドを買いに走った、厨二病真っ盛りだったあの頃。今聴いても③、⑤あたりはめっちゃカッコイイ!(盛淳)
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004
つ ビーン・ア・ロング・ターイム。いや、そうでもなーい?
“千%” - KICK THE CAN CREW(2017年)
“GOOD MUSIC” - KICK THE CAN CREW(2003年)


◎14年振りの新曲、と聞くと意外に思うのは何度もチョロチョロとステージで集まってたせいか。でも新曲としては14年振り。
◎「心臓」までのKREVAは日本語ラップ初の「スター」感があったと思う。それ以降の失速は俺の余計な心配ではなかったのか、KICK THE CAN CREWを再結成というニュースは「背水の陣」と受け取った。
◎先行シングルらしき”千%”はアートワークも音も14年前と地続きで、よくも悪くも変わってない、手堅い一手。もちろん好きなんだけど、なぜか寂しさも。(キド)


◎「やっぱあんたがいなくなるなんて考えたくもない
/このまま気づかないふりで頑張れなくもない
」なんて14年前に自分で言っちゃってる。
◎正直にいうと、おれは日本語ラップは1993年から2003年までものだけで充分かもしれない。(キド)
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005
会社に辞表を叩きつけ/女の格好で帰宅して/カミさんと子供寝かしつけ/真夜中の部屋で俺ひとり
“SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)” - tofubeats(2017)
“Fitter Happier” - RADIOHEAD(1997)


◎しばらく新譜をほとんど聴いてなかったのです。理由は主に生活。
◎でまあ、僕も休日は妻子連れてショッピングモールへよく行くのです。たまにお父さんちょっと見てくるわって規模縮小されたHMVなんか覗いて、そんで特に何もねえなってなってピンク・フロイドの紙ジャケとか買ったりしてて。
◎そんな僕にジャストで響いたこの曲。新譜の話する人いない
ってなあ、これ自分のことじゃんって。人の心をえぐるポップスは中毒性が高い。抜け出せぬ悲哀がまとわりつくよな気怠いトラックも良い。世に出る新譜ちゃんと聴こうかなってまた思えた一曲。(和無田)


◎tofubeatsに心を刺された僕も20年前は胸を痛めてOKコンピューターなんて聴いてたわけですが、当時はこの曲、大人になり社会へ順応することへの皮肉ってるのかなと単純に思ってました。
◎が、2017年にOKコンピューター20周年盤とか出されると複雑!この曲って社会に出る前の僕らの心のやらかい場所を突いてたんじゃなかったの?みたいな。
◎ちなみに1997年に「20年前の革新を振り返る」とピストルズになるって知り合いが言ってました。そっからさらに20年だとプレスリーだ。要はそういう事だ。好きだけど、それだけじゃあ2017年はノリ切れない気がしてるのです。(和無田)
disk review : New&Old
006
抑制の魔法/大人になったら
“It’s a Shame (feat. Pink Feathers)” - RAC(2017)
“Dreams” - Fleetwood Mac(1977)


◎2017年のグラミー・リミックス部門ウィナーが放つ新譜は、EDM以前のポップソングをナウな形式に再構成……というか丹念に焼き直していく職人の手つき。
出自に似合わぬ、良い意味で節操のないヒットソング志向がアルバム全体に横溢しており、いやーいいんじゃない、コレ。
◎MNDRやKNAなど、旬なゲストを交えた本作のハイライトは、リヴァース・クオモ本人を招いた上で、衒いもなくWeezerごっこを炸裂させるシングル曲、②でしょうな。
◎しかし、個人的におおっ!? と唸ったのは、ポートランド・コネクションの仲間であろう Pink Feathers がVoを務めるこの曲。
シンプルでタイトな8ビートを刻む事で、なぜか産まれてしまうポップスの魔法。こっちをシングルカットしても全然OKだったんでは。あ、これからするのかも。(盛淳)


◎こちらも淡々としたビートが歌姫スティービー・ニックスの魅力を引き立てる名曲。ライブ音源ではこの「抑制の魔法」が効いていない場合もあって、興味深い。フロントマン3人によるコーラスパートも、ボリューム奏法を駆使したギタープレイもまた、素晴らしい。
◎収録アルバム「噂」は、全米チャート31週間連続1位!という化け物めいた1枚。ただ、後追い世代からすると、なぜそんなに売れたのか正直「?」なトコも。
◎もしかしてだけど、メンバーの「ルックス」は結構大きな要素だったんじゃないかなー。
英国で10指に入る脚線美、と称されたクリス・マクヴィー。そして妖精然とした見た目と振る舞いでファンを魅了したスティービー。(※のちに魔女化)
男性陣の渋い魅力もさる事ながら、このブロンド2枚看板に惹かれて暖簾をくぐったオジサマ方、多いんじゃないスかね?
◎で、その二人を含むメンバー内カップル2組(!)が一気に破局、リーダーのミックも奥さんに不倫され……という、私生活ガタガタ状態で録音された本作。
口当たりはスムースなれど、実際には必死に前を向こうとするカラ元気と、別れた相手への怨嗟&当てこすりがステアーされた甘くて苦くて酸っぱーい味わい。
このエンドオブ公私混同の後も、彼らは長く同じメンバーで活動し、さらにヒットを飛ばし、お決まりのリユニオンも果たす。
オトナの耳で長く楽しみたいアルバムかもね。ピークを過ぎてもなお、人生は長い。(盛淳)
Notes:
CryBaby - 001. MUSIC REVIEW ISSUE ◎ 創刊準備号(2017.09)
Writer:
木戸 永吾/和無田 壁/ディーン・盛淳